不動産鑑定士の仕事は、不動産の経済価値を判定、評価することです。
不動産鑑定士はさまざまな依頼に応じて、土地や建物の価値の判定や
コンサルティングを行います。
不動産の価値は時代の流れや社会情勢と共に変化し、土地に関する権利
などの経済価値を見極める必要があるため、不動産鑑定士は不動産の適正な
価格を鑑定する社会的役割を担っています。
弁理士は、技術や発明の権利、知的財産を守るための仕事をしています。
どちらも重要な責任を担う仕事ですが、その業務内容は大きく異なるため
資格を取得する上での勉強の方向性も大きく異なります。
その割合を見ると、不動産鑑定士には文系出身の人が多く弁理士には
理系出身の人が多く見受けられます。
当記事では、なぜ理系に弁理士がおすすめなのかを業務内容や年収資格試験
などを通して解説していきます。
不動産鑑定士と弁理士のどちらかで、迷っている理系の方は
それぞれの違いを見て参考にしてみてください。
目次
不動産鑑定士と弁理士の資格難易度の違い
不動産鑑定士試験と弁理士試験は、どちらの試験も受験資格は設けておらず
年齢、国籍、学歴に問わず誰しもが受けることのできる試験です。
不動産鑑定士の試験は、第一次試験と二次試験に分かれています。
不動産鑑定士の第一次試験となる短答式試験は
下記の科目から出題されます。
(1)不動産に関する行政法規(40問)
不動産鑑定士の業務で必要となる37法令から出題されます。
主に、土地基本法、都市計画法、建築基準法、不動産登記法
農地法、森林法、景観法、文化財保護法、土壌汚染対策法
などから出題され、基本的知識が身についているか問われる
試験科目となります。
(2)不動産の鑑定評価に関する理論 (40問)
不動産鑑定士が実際に不動産の鑑定評価を行う時に必要となる理論で
国土交通省が制定した不動産鑑定評価基準と運用上の留意事項の2つを元に
不動産鑑定士がどのような理論を持って、どのような手順で不動産の
鑑定評価を行うのか知識を問われる試験科目となります。
不動産鑑定士の第二次試験となる論文式試験は、3日間にも渡る試験となり
下記の科目から出題されます。
(1)民法(2問)
(2)経済学(2問)
(3)会計学(2問)
(4)不動産の鑑定評価に関する理論(論文問題4問)
不動産鑑定士が実際に不動産の鑑定評価を行う時に必要とされる鑑定理論の
知識を論述式で問われます。短答式試験よりも体系的かつ本質的な理解が
求められる試験科目です。
(5)不動産の鑑定評価に関する理論(演習問題2問)
事例をもとに、鑑定評価の手法を適用し実際に不動産鑑定を行う実務に近い
試験科目です。電卓を使って計算処理をしながら鑑定評価額を
導き出します。
上記の第一次試験と第二次試験の科目を見ると法律に基づく
科目が目立ちます。
先にも、不動産鑑定士の試験を受ける人たちに文系出身者が
多いことを上げましたがその理由は、不動産鑑定士試験の
試験科目にあるでしょう。
上記の科目を見ても明らかであるように、不動産鑑定士の
試験をうける人の大半は商学部や法学部出身で、学生時代に
学んできたことの多くが反映されていることがわかります。
そして、不動産鑑定士の試験の合格者は30歳未満が最も
多いことから、大学や大学院に在学中に不動産鑑定士の資格を
取得する人も多く見受けられます。
不動産鑑定士の試験に比べて弁理士の試験は、特許や知的財産に
関する分野に絞って勉強することができるので、仕事をしながら
独学でも問題なく学ぶことが可能です。
論文試験で出題される事例問題は分析力を求められますが
理系出身の人からすれば分析は基本的な考え方の一つですから
分析力を合格基準点まで鍛え上げることができれば一発で
合格することも可能です。
実際に、合格者の平均年齢が37歳であることから
たくさんの人が仕事をしながら資格取得を目指していることが
わかります。
このように、試験だけを見ても不動産鑑定士と弁理士では
大きく異なっています。
不動産鑑定士試験と弁理士試験の合格率
2019年度は、不動産鑑定士の試験を受けた人は2262名
合格者は121名で合格率は14.9%でした。
過去5年のデータを見ると毎年約14%の合格率となります。
年齢別で合格率を見てみると30歳未満が28.7%と最も
多く、次いで30歳~40歳では16.3%となっています。
50歳~55歳になると合格率が3.6%です。
弁理士の試験の場合は、特許庁の発表しているデータによると
2019年に弁理士の試験を受けた人は3488名
合格者は284名で合格率は8.1%でした。
過去のデータから比較すると、受験者は年々減少傾向に
ありますが合格者はほぼ横ばいで毎年、7%~8%をいったり
きたりしている状態です。
年齢別で合格率を見てみると30代が47%と最も多く
次いで40代が26%となっています。
職業別では、会社員が50%となり、合格者の半分を
占めています。
合格者のほとんどが数回の挑戦で合格していますが
1回の挑戦で合格する人は10%以上います。
そして、理系出身者の合格率は78.2%でした。
この合格率は、いかに弁理士の試験が理系出身者にとって
有利な資格であるかわかる数値です。
理系大学の出身者の中には、卒業研究や、理系の大学院在学中に
行う研究にて特許を出願することもあります。
特許を申請するまでに数々の工程を踏むため、理系出身者には
特許や知的財産に関する基本的な知識が備わっていることが
わかります。
また、弁理士試験の選択科目試験の内容は下記の科目から
出題され、いずれか1つを選んで試験に臨みます。
(1)理工Ⅰ(機械・応用力学):材料力学、流体力学
熱力学、土質工学
(2)理工Ⅱ(数学・物理):基礎物理学、電磁気学、回路理論
(3)理工Ⅲ(化学):物理化学、有機化学、無機化学
(4)理工Ⅳ(生物):生物学一般、生物科学
(5)理工Ⅴ(情報):情報理論、計算機工学
(6)法律(弁理士の業務に関する法律):民法
上記の科目を見てわかるように、理系の科目が多いことからも
弁理士試験の合格者に理系出身者が多い理由の一つと言えます。
不動産鑑定士と弁理士では、不動産鑑定士試験の合格率の方が
6%ほど高いです。
不動産鑑定士試験の合格者は、40代の合格者が少ないのに
対して、弁理士試験は年齢も20代~40代と幅広い年齢の
合格者がいます。
会社員として働いている人たちも多く大半の人が理系の職種に
ついている人たちです。
よって、たくさんの文系の人たちが取得する不動産鑑定士の
試験よりも社会人になってからの実務を活かし、コツコツ
学べる弁理士試験の方が理系出身者におすすめであると
言えるでしょう。
不動産鑑定士と弁理士の勉強時間
不動産鑑定士試験の勉強時間は、2000時間~3500時間と
言われていますが、中には4000時間以上を試験勉強に
費やしている人もいます。
その理由として上げられるのは、不動産鑑定士の試験科目である
法律についての事前知識の有無、また実務経験の有無によって
勉強時間が大きくことなる点です。
では、不動産鑑定士の試験に比べて、弁理士試験の勉強時間は
いかなるものか説明します。
弁理士の試験に合格するために必要な勉強時間は
3000時間と言われています。
弁理士の1日平均の勉強時間は平日が3時間で土日が8時間と
言われていますが、正しい勉強法で弁理士の試験に必要な
範囲だけを勉強すれば、勉強時間は1500時間程度で合格が
可能です。
弁理士の試験を受ける人たちの多くは会社員ですから
働きながら勉強に時間を費やすことは簡単なことでは
ありません。しかし、集中して効率よく勉強を進めていけば
勉強時間は1500時間程度ですみ受験にかかるまでの時間を
1年とし1日4時間×365日を少しずつ積み重ねていけば
1460時間になり働きながらでも1年で合格することが
可能です。
不動産鑑定士試験の勉強時間最大で4000時間と言われている
ことに対し弁理士試験の勉強時間は、効率よく勉強を
進めていけば、1460時間までに短くすることが出来るので
弁理士資格は時間を有効に使うことが出来ます。
不動産鑑定士と弁理士にある年収の違い
(1)不動産鑑定士の年収
不動産鑑定士の平均年収は755万円です。
一般の働き手に比べると高い年収となっています。
年齢別での平均年収は、50歳~54歳で997万円と最も多く
20歳~24歳では474万円です。
また、平均年収は体系によっても大きく異なります。
①独立している:1000万円
過去には、年収3000万円に迫る独立事務所もありましたが
現在は、独立事務所が増えたことにより飽和状態な業界と
なっているため年収1000万円には届かない不動産鑑定士が
大多数を占めます。
②大企業の不動産鑑定士:964万円
不動産鑑定士は、業務内容によって報酬が大きく変わります。
中でもメガバンクなどの金融企業に属している不動産鑑定士が
高収入と言われています。
③中企業の不動産鑑定士:798万円
④小企業の不動産鑑定士:723万円
⑤個人事務所の不動産鑑定士:430万円~900万円
この他にも都道府県別の平均年収のデータも公表されており
東京都が1163万円と最も多く、1番低い平均年収で
あったのが沖縄県の665万円です。
東京都と沖縄県では498万円もの収入差が出ています。
以上のことから、平均年収755万円と謳われる不動産鑑定士の
年収ですが必ずしも、この額がもらえるというわけではなく
年収755万円よりも低い年収になってしまう可能性がある
ことを押さえておくとよいでしょう。
(2)弁理士の年収
弁理士の平均年収は800万円です。
20歳~24歳の平均年収は433万円で、50歳~54歳の
年収が912万円と最も多い平均年収となります。
また、平均年収は就職する企業によって大きく異なります。
①独立して成功している:年収1000万円~3000万円
弁理士は、その絶対数が少ないことから大変重宝される職種で
あるため成功する確率が高く、知財コンサルや経営コンサルに
参加することもあり幅広い収入が期待できます。
よって、年収1000万円から2000万円で独立成功と
言えるでしょう。
②大手弁理士事務所、または大企業の企業内弁理士:年収881万円
先に独立を考える弁理士は、大規模な事務所や大手企業に就職する人が多い
傾向にあります。
③中規模な弁理士事務所、または中企業内弁理士:年収729万円
④零細弁理士事務所、または小企業の企業内弁理士:年収661万円
この他にも都道府県別の平均年収のデータも公表されており
東京都が1064万円と最も多く、1番低い平均年収であったのが
沖縄県の608万円です。
東京都と沖縄県では456万円もの収入差がでています。
以上のことから、弁理士の平均年収と不動産鑑定士の平均年収は
同じぐらいであることがわかります。
しかし、弁理士は歩合制を採用している特許事務所が多いことから、
年齢に関係なく経験や能力が給与に反映されるため
給与を増やすことが可能です。
特に、理系出身者の場合、得意分野を活かし他の弁理士よりも豊富な
知識を持ち合わせているので、特許事務所での実務経験が5年前後で
年収1000万円が手の届く範囲となります。
弁理士は売上次第で報酬は青天井なので年収2000万円も
夢ではありません。
不動産鑑定士と弁理士の仕事内容の比較
(1)不動産鑑定士の業務内容
不動産鑑定士の仕事は主に2種類の業務があります。
①不動産鑑定評価
不動産鑑定評価は不動産鑑定士の独占業務です。
土地や建物など不動産の経済価値について、周囲の地理的状況や
法規制、市場経済における価値などを考え鑑定評価した後
鑑定評価額を算出し不動産鑑定評価書を作成します。
②コンサルティング
不動産の鑑定評価にもとづき、クライアントのニーズに合わせた
適切なアドバイスや提案をします。
クライアントは個人から企業と幅広く、中には海外企業への
コンサルティングを行う不動産鑑定士もいます。
(2)弁理士の業務内容
弁理士の代表的な業務は、知的財産権を取りたい人のために
特許庁への手続きを代理で行うことです。
弁理士の仕事を大きく分けると4種類の業務があります。
①産業財産権(特許・実用新案、意匠、商標)の取得
権利の取得、鑑定・判定・技術評価書の作成に関する業務を
担当します。
これらはいずれも、弁理士の独占業務となります。
外国での産業財産権の取得のために、外国における拒絶理由通知
に対する応答案を作成したり、応答案を基に外国の代理人に
正式な書面の作成を依頼したりします。
②産業財産権の紛争解決
訴訟を始め、裁判外紛争解決の手続きなど、輸出差止めの
業務となります。
③コンサルティング業務、契約支援
知財コンサルティング、契約書の作成・レビュー、契約の代行を
行います。
④企業内弁理士の業務
最近では、大手企業を始め、中小企業に渡り企業内弁理士として
活躍している弁理士が増えています。
企業内弁理士は、通常の弁理士とは違った角度からの業務内容
となり競合している他社の特許・技術の調査、発明者から
出された考えの新規性の調査、自社の出願手続き、特許戦略の
立案など幅広い業務を行います。
①の仕事は技術者へのヒアリングが多くを占める業務で、技術者の発明に
ついて十分に理解し、特許明細書を作成します。特許明細書は
技術者の説明や、背景技術、技術の応用例などを記載する必要があり、
技術者へのヒアリングが1回、稀に数回となる業務です。
このヒアリングに関して理系出身者の場合、発明の基礎的なロジックを
理解しているため、スムーズに業務を行うことができるでしょう。
理系には弁理士がおすすめ!
当記事では、不動産鑑定士と弁理士の年収、業務内容、試験難易度などの
違いを解説させていただきました。
不動産鑑定士と、弁理士ともに国家資格であり、どちらも誇れる職種ですが
私は理系の人たちに、弁理士になることをおすすめします。
弁理士は、不動産鑑定士に比べて合格率は6%ほど低い
ですが、不動産鑑定士の合格者を年齢別で見ると、30歳未満が最も
多く学生の間に不動産鑑定士の試験勉強に取り組んでいることが
わかります。その点、弁理士試験の場合は、合格者の年齢も幅広く
社会に出てから試験勉強に取り組み始めても、十分に合格が
狙える資格です。
また、不動産鑑定士は独立している人が多いことから
仕事の取り合いとなり値下げ合戦が繰り広げられ、業界が飽和状態に
なっていることも不安要素です。
不動産鑑定士は、難関と言われる試験に合格したにも関わらず
その年収は果たして努力に見合っているのかと考えると
疑問が残ります。
弁理士の場合は雇われ弁理士としても安定が望め
独立した後のことを考えても努力が報酬に結びつく数少ない業種です。
そして、やはり不動産鑑定士には文系出身者が多く
弁理士には理系出身者が多いという点を考えると、今持っている
自分の知識を存分に発揮できるのは弁理士という職業でしょう。
あなたが理系出身で、どちらの資格を取るか迷っているならば
是非この記事を参考にしていただければ幸いです。
理系出身弁理士のお仲間が増えることを願っています。