建築士は設計や工事の監理などを行う仕事です。
建築士の資格は1級と2級に分かれており
それぞれの資格によって、設計できる建物が異なります。
弁理士は、技術や発明の権利、知的財産を守るための仕事をしています。
どちらも重要な責任を担う仕事ですが、その業務内容は大きく
異なるため資格を取得する上での勉強の方向性も大きく異なります。
当記事では、なぜ理系に弁理士がおすすめなのかを業務内容や年収資格試験
などを通して解説していきます。
建築士と弁理士のどちらかで、迷っている理系の方はそれぞれの違いを
見て参考にしてみてください。
目次
建築士と弁理士の資格難易度の違い
建築士の資格は、1級と2級に分かれています。
(1)2級建築士
2級建築士の試験は、下記の受験資格が必要となります。
・大学(短期大学を含む)または高等専門学校おいて、指定科目を
修めて卒業した者
・高等学校または中等教育学校において、指定科目を修めて卒業した者で
建築実務経験を3年以上積んだ者
・その他都道府県知事が認める者
・建築に関する科目を修めてはいないが、建築実務経験を7年以上積んだ者
建築士試験の受験資格の1つである「指定科目」とは建築設計、工事監理等の
建築士の業務において知識、能力の 養成に値する科目のことです。
2級建築士になるためには、上記の受験資格を満たし試験に臨みます。
そして、大学を修了した人は実務経験がなくても2級建築士の試験を
受験することができますが、2級建築士の試験を受けるまでに
7年もの時間を必要とする人がいることを押さえておくとよいでしょう。
2級建築士の試験は、学科試験と設計製図試験があります。
学科試験の試験科目は下記の科目となります。
学科Ⅰ:建築計画
・建築各論:屋根形状、建築物の環境負荷、集合住宅、商業施設
バリアフリーへの配慮
・環境工学:換気、伝熱、室内環境、表面結露、日照、採光、音
・建築史:日本建築史、西洋建築史
・建設設備:空気調和設備、給排水衛生設備、電気設備、照明計画
環境に配慮した建築設備計
学科Ⅱ:建築法規
学科Ⅲ:建築構造
・構造力学:断面の性質、応力度・許容応力度、静定ラーメンの応力
静定トラスの応力
・各部構造:地震力、荷重・外力、風圧力、地盤、基礎構造、木造構造
壁式鉄筋コンクリート造、鉄骨構造、耐震構造
・材料:木材、セメント、骨材、コンクリート、金属材料、材料融合
学科Ⅳ:建築施工
・施工計画:ネットワーク工程表、現場管理、材料管理、現場管理
・各部工事:木造住宅の基礎工事、土工事、基礎地業工事、コンクリート工事
型枠工事、鉄筋工事、木工事、防水工事、屋根工事、塗装工事
設計製図試験は、事前に公表された課題の建設物の設計図面の
作成を行います。
(2)1級建築士
1級建築士の試験は、下記の受験資格が必要となります。
・大学で指定科目を修めて卒業後、2年以上の建築実務経験を積んだ者
・3年制短期大学(夜間部を除く)で指定科目を修めて卒業後
3年以上の建築実務経験を積んだ者
・2年制短期大学または高等専門学校で指定科目を修めて卒業後
4年以上の建築実務経験を積んだ者
・2級建築士の資格を持ち、2級建築士として4年以上の建築実務経験を積んだ者
・建築設備士の資格を持ち、建築設備士として4以上の建築実務経験を積んだ者
・その他国土交通大臣が認める者
建築士試験の受験資格の1つである「指定科目」とは建築設計、工事監理等の
建築士の業務において知識、能力の 養成に値する科目のことです。
1級建築士の試験は、学科試験と設計製図試験があります。
学科試験の試験科目は、2級建築士の学科試験科目と環境と設備に関しての
設問が出題されます。
設計製図試験は、事前に公表された課題の建設物の設計図面の
作成を行います。
1級建築士になるためには、上記の受験資格を満たし試験に臨みます。
そして、大学を修了した人は実務経験2年で1級建築士の試験を
受験することができますが、1級建築士の試験を受けるまでに
4年もの時間を必要とする人がいることを押さえておくとよいでしょう。
1級建築士、2級建築士共に、令和2年度から建築士法の一部改正に
伴い実務経験の期間が変更となったことで、学校を卒業後に直ぐに
建築士の試験を受験することが可能となったため、学生時代に学んだ
多くのことを忘れぬうちに活かして試験に臨むことができます。
そのため令和2年度の建築士試験からは、若い世代の合格率が
高くなることが予想されています。
建築士の試験に比べて弁理士の試験は、特許や知的財産に関する分野に
絞って勉強することができるので、仕事をしながら独学でも問題なく学ぶ
ことが可能です。
論文試験で出題される事例問題は分析力を求められますが理系出身の人から
すれば分析は基本的な考え方の一つですから、分析力を合格基準点まで
鍛え上げることができれば一発で合格することも可能です。
実際に、合格者の平均年齢が37歳であることから、たくさんの人が仕事を
しながら資格取得を目指していることがわかります。
また、弁理士の試験では受験資格を儲けていないので
学歴や年齢、国籍に問わず誰でもが平等に受けることのできる試験です。
このように、試験だけを見ても建築士と弁理士では大きく異なっています。
建築士と弁理士試験の合格率
2019年度は、2級建築士の試験を受けた人は19389名、合格者は
5037名で合格率は22.2%でした。
年齢別で合格率を見てみると、学科試験、設計製図試験共に
24歳未満の合格率が圧倒的に高く、50%以上の合格率となります。
次いで、30代で合格率が16%となり、約半数の人が大学を卒業と同時
または、卒業後2年以内に2級建築士の資格を取得する傾向にあります。
2019年度は、1級建築士の試験を受けた人は25132名、合格者は
3571名で合格率は12%でした。
年齢別で合格率を見てみると、24歳~26歳以下の合格者が最も
多く、26.7%です。35歳以上になると合格率が13%となり
1級建築士の試験も、2級建築士の試験と同様に
大学を卒業した後、数年以内に1級建築士の資格を取得する
傾向にあります。
弁理士の試験の場合は、特許庁の発表しているデータによると
2019年に弁理士の試験を受けた人は3488名、合格者は284名で
合格率は8.1%でした。
過去のデータから比較すると、受験者は年々減少傾向にありますが
合格者はほぼ横ばいで毎年、7%~8%をいったりきたりしている状態です。
年齢別で合格率を見てみると30代が47%と最も多く、次いで40代が
26%となっています。
職業別では、会社員が50%となり、合格者の半分を占めています。
合格者のほとんどが数回の挑戦で合格していますが
1回の挑戦で合格する人は10%以上います。
そして、理系出身者の合格率は78.2%でした。
この合格率は、いかに弁理士の試験が理系出身者にとって有利な資格である
かわかる数値です。
理系大学の出身者の中には、卒業研究や、理系の大学院在学中に行う研究にて
特許を出願することもあります。
特許を申請するまでに数々の工程を踏むため、理系出身者には特許や知的財産に
関する基本的な知識が備わっていることがわかります。
また、弁理士試験の選択科目試験の内容は下記の科目から出題され
いずれか1つを選んで試験に臨みます。
(1)理工Ⅰ(機械・応用力学):材料力学、流体力学、熱力学、土質工学
(2)理工Ⅱ(数学・物理):基礎物理学、電磁気学、回路理論
(3)理工Ⅲ(化学):物理化学、有機化学、無機化学
(4)理工Ⅳ(生物):生物学一般、生物科学
(5)理工Ⅴ(情報):情報理論、計算機工学
(6)法律(弁理士の業務に関する法律):民法
上記の科目を見てわかるように、理系の科目が多いことからも、弁理士試験の
合格者に理系出身者が多い理由の一つと言えます。
建築士と弁理士では、建築士試験の合格率の方が4%~14%ほど高いです。
建築士試験の合格者は、40代の合格者が少ないのに対して
弁理士試験は、年齢も20代~40代と幅広い年齢の合格者がいます。
会社員として働いている人たちも多く大半の人が理系の職種についている
人たちです。
よって、建築士の試験よりも社会人になってからの実務を活かし
コツコツ学べる弁理士試験の方が
理系出身者におすすめであると言えるでしょう。
建築士と弁理士の勉強時間
建築士試験の勉強時間は、1級2級共に1000時間~1500時間と
言われています。
2級建築士の学科試験に関しては、独学でも合格ラインまで
達することができますが、2級建築士の設計製図試験と
1級建築士の試験は独学はほぼ、不可能と言われています。
そのため、大学在学中に講義にて学ぶ、専門学校への入学
または、建築に携わる仕事の中で学ぶ人たちが多いです。
では、建築士の試験に比べて、弁理士試験の勉強時間はいかなるものか
説明しましょう。
弁理士の試験に合格するために必要な勉強時間は、3000時間と言われており
時間だけで見ると、建築士よりも1500時間~2000時間多いです。
弁理士の1日平均の勉強時間は平日が3時間で土日が8時間と言われていますが、正しい
勉強法で弁理士の試験に必要な範囲だけを勉強すれば、勉強時間は1500時間程度で合格が可能です。弁理士の試験を受ける人たちの多くは会社員ですから、働きながら勉強に時間を
費やすことは簡単なことではありません。
しかし、集中して効率よく勉強を進めていけば、勉強時間は1500時間程度ですみ
受験にかかるまでの時間を1年とし、1日4時間×365日を少しずつ積み重ねていけば
1460時間になり、働きながらでも1年で合格することが可能です。
建築士試験の勉強時間が1000時間~1500時間と言われていることに対し、弁理士試験の
勉強時間は、効率よく勉強を進めていけば、1460時間までに短くすることが出来るので
勉強時間の差はさほどないことがわかります。
建築士の試験は、独学で学ぶことが不可能とされていますが
弁理士の試験は、独学で学ぶことが可能です。
この点においても、自分のペースで勉強のできる弁理士試験の方が
おすすめと言えるでしょう。
建築士と弁理士にある年収の違い
(1)建築士の年収
2級建築士の平均年収は440万円~520万円です。
一般の働き手に比べても平均的な年収です。
1級建築士の平均年収は600万円~700万円です。
一般の働き手に比べると高い年収となっています。
年齢別での平均年収は、50歳~54歳で586万円~696万円と
最も多く20歳~24歳では331万円です。
また、平均年収は就職する企業によって大きく異なります。
①2級建築士
ゼネコン:500万円
建設会社:480万円
ハウスメーカー:470万円
設計事務所:480万円
②1級建築士
ゼネコン:650万円
建設会社:640万円
ハウスメーカー:660万円
設計事務所:600万円
この他にも都道府県別の平均年収のデータも公表されており
東京都が812万円と最も多く、1番低い平均年収であったのが
沖縄県の464万円です。
東京都と沖縄県では348万円もの収入差がでています。
2級建築士、1級建築士共に建築士の資格だけを持って
独立するケースは無いに等しいと言えます。
なぜなら、建物を建設する上で必ず必要となる資格は
建築士の資格だけではないからです。
独立する多くの建築士は、建築士の資格の他に
管理建築士や宅地建物取引士の資格を持っています。
設計事務所など、建設を生業にしている会社は
必ず、監理建築士が必要となります。
建築士のみの資格では、独立しても仕事が行えないことを
押さえておきましょう。
独立に成功した建築士の年収は1000万円を超えることも
可能ですが、多くの独立事務所は企業に務めていたころの
年収を超えることは少ないです。
その理由としては、人口が減ったことで新築物件を建てる
人たちが減ったことです。
またAIの発達により、独立に二の足を踏んでいる建築士の人たちも
いることを押さえておくてよいでしょう。
(2)弁理士の年収
弁理士の平均年収は800万円です。
20歳~24歳の平均年収は433万円で、50歳~54歳の年収が
912万円と最も多い平均年収となります。
また、平均年収は就職する企業によって大きく異なります。
①独立して成功している:年収1000万円~3000万円
弁理士は、その絶対数が少ないことから大変重宝される職種であるため
成功する確率が高く、知財コンサルや経営コンサルに参加することもあり
幅広い収入が期待できます。
よって、年収1000万円から2000万円で独立成功と言えるでしょう。
②大手弁理士事務所、または大企業の企業内弁理士:年収881万円
先に独立を考える弁理士は、大規模な事務所や大手企業に就職する人が多い
傾向にあります。
③中規模な弁理士事務所、または中企業内弁理士:年収729万円
④零細弁理士事務所、または小企業の企業内弁理士:年収661万円
この他にも都道府県別の平均年収のデータも公表されており
東京都が1064万円と最も多く、1番低い平均年収であったのが
沖縄県の608万円です。
東京都と沖縄県では456万円もの収入差がでています。
以上のことから、弁理士の年収と建築士の年収では、圧倒的に弁理士の収入の方が多い
ことがわかります。そして、弁理士は歩合制を採用している特許事務所が多いことから、
年齢に関係なく経験や能力が給与に反映されるため、給与を増やすことが可能です。
特に、理系出身者の場合、得意分野を活かし他の弁理士よりも豊富な知識を
持ち合わせているので、特許事務所での実務経験が5年前後で年収1000万円が手の届く
範囲となります。弁理士は売上次第で報酬は青天井なので年収2000万円も
夢ではありません。
建築士と弁理士の仕事内容の比較
(1)建築士の業務内容
2級建築士は延べ面積300㎡以下で高さ13mかつ軒高9m以下の建築物であれば
設計、工事監理することができます。
わかりやすい建物で説明すると、新築住宅などの設計です。
1級建築士は、2級建築士のような制限はなく住宅はもちろんのこと、
高層ビルやトンネル、公共事業に関わる設計、工事監理をすることができます。
建築士の仕事には下記の業務があります。
①基本計画(プレゼン資料、パース図作成)業務
②基本設計図面(平面図、立面図、断面図)作成業務
③実施設計図面(詳細図)作成業務
④施工図作成業務
⑤確認申請業務
⑥各種資料作成業務
上記のことからもわかるように、建築士は建物を建てる際に
欠かせない軸の部分を担う仕事です。
(2)弁理士の業務内容
弁理士の代表的な業務は、知的財産権を取りたい人のために特許庁への
手続きを代理で行うことです。
弁理士の仕事を大きく分けると4種類の業務があります。
①産業財産権(特許・実用新案、意匠、商標)の取得
権利の取得、鑑定・判定・技術評価書の作成に関する業務を担当します。
これらはいずれも、弁理士の独占業務となります。
外国での産業財産権の取得のために、外国における拒絶理由通知に対する
応答案を作成したり、応答案を基に外国の代理人に正式な書面の作成を
依頼したりします。
②産業財産権の紛争解決
訴訟を始め、裁判外紛争解決の手続きなど、輸出差止めの業務となります。
③コンサルティング業務、契約支援
知財コンサルティング、契約書の作成・レビュー、契約の代行を行います。
④企業内弁理士の業務
最近では、大手企業を始め、中小企業に渡り企業内弁理士として活躍している
弁理士が増えています。
企業内弁理士は、通常の弁理士とは違った角度からの業務内容となり競合している
他社の特許・技術の調査、発明者から出された考えの新規性の調査、自社の
出願手続き、特許戦略の立案など幅広い業務を行います。
①の仕事は技術者へのヒアリングが多くを占める業務で、技術者の発明について
十分に理解し、特許明細書を作成します。特許明細書は、技術者の説明や、
背景技術、技術の応用例などを記載する必要があり、技術者へのヒアリングが1回、
稀に数回となる業務です。
このヒアリングに関して理系出身者の場合、発明の基礎的なロジックを
理解しているため、スムーズに業務を行うことができるでしょう。
理系には弁理士がおすすめ!
当記事では、建築士と弁理士の年収、業務内容、試験難易度などの違いを
解説させていただきました。
建築士と、弁理士ともにどちらも誇れる職種ですが
私は理系の人たちに、弁理士になることをおすすめします。
弁理士は、建築士に比べて合格率は4%~14%ほど低いですが、建築士の
合格者を年齢別で見ると、26歳未満が最も多く学生の間に建築士の
試験勉強に取り組んでいることがわかります。
その点、弁理士試験の場合は、合格者の年齢も幅広く、社会に出てから試験勉強に
取り組み始めても、十分に合格が狙える資格です。
また、独立することを考えると建築士は、建築士の資格だけでの独立成功は
ほぼ不可能であり、建築士の資格の他に資格を持つ傾向にあります。
弁理士の場合は雇われ弁理士としても安定が望め、独立した後のことを考えても
努力が報酬に結びつく数少ない業種です。
あなたが理系出身で、どちらの資格を取るか迷っているならば、是非この記事を参考に
していただければ幸いです。
理系出身弁理士のお仲間が増えることを願っています。