司法書士は法務局や検察庁、裁判所に提出するための書類作成をしたり、登記手続きを
代理で行う仕事です。
弁理士は、技術や発明の権利、知的財産を守るための仕事をしています。どちらも重要な
責任を担う仕事ですが、その業務内容は大きく異なるため資格を取得する上での勉強の
方向性も大きく異なります。
その割合を見ると、司法書士には文系出身の人が多く弁理士には、理系出身の人が多く
見受けられます。
当記事では、なぜ理系に弁理士がおすすめなのかを業務内容や年収資格試験などを通して
解説していきます。司法書士と弁理士のどちらかで、迷っている理系の方はそれぞれの違いを
見て参考にしてみてください。
目次
司法書士と弁理士の資格難易度の違い
司法書士試験と弁理士試験は、どちらの試験も受験資格は設けておらず、年齢、国籍、学歴に問わず誰しもが受けることのできる試験です。
司法書士の試験は、士業の中でも最難関と言われるほど、たいへん難しい試験です。
司法書士になるためには2つの方法があり、1つは司法書士の試験に合格することです。
もう1つの方法は、法務大臣から認可を受ける方法です。しかし、2つ目の方法は
司法書士の試験に合格するよりも難易度が高く、法務事務官や裁判所書記官としての実務を
10年以上経験した者、もしくは簡易裁判所の判事・副検事として5年以上の実務経験を積む
必要があるので、更に狭き門となります。
なので、司法書士になるためには、司法書士の試験を受けることが一般的です。
また、司法書士の試験に合格した後も、日本司法書士会連合会への司法書士名簿の登録、
管轄地域の司法書士会への入会や、実務に必要な研修を受け、はじめて司法書士と名乗り
仕事を始めることができるため、司法書士として働き出すまでにたくさんの時間が
必要となります。
先にも、司法書士の試験を受ける人たちに文系出身者が多いことを上げましたがその理由は、司法書士試験の試験科目にあるでしょう。
司法書士の試験科目は、憲法、民法、刑法、商法(会社法)、民事訴訟法、民事執行法、
民事保全法、司法書士法、供託法、不動産登記法、商業登記法の計11科目です。
上記の科目を見ても明らかであるように、司法書士の試験をうける人の大半は法学部
出身で、学生時代に学んできたことの多くが反映されていることがわかります。
司法書士の試験に比べて弁理士の試験は、特許や知的財産に関する分野に絞って
勉強することができるので、仕事をしながら独学でも問題なく学ぶことが可能です。
論文試験で出題される事例問題は分析力を求められますが、理系出身の人からすれば
分析は基本的な考え方の一つですから、分析力を合格基準点まで鍛え上げることができれば
一発で合格することも可能です。
実際に、合格者の平均年齢が37歳であることから、たくさんの人が仕事をしながら
資格取得を目指していることがわかります。
また、弁理士は、弁理士の試験に合格した後、実務研修があり、修習が終わって初めて
弁理士会に登録して弁理士になれます。
このように、試験だけを見ても司法書士と弁理士では大きく異なっています。
司法書士と弁理士の合格率
2019年度は、司法書士の試験を受けた人は13683名、合格者は601名で合格率は
3.6%でした。毎年、3%以上4%未満の合格率となります。年齢別で合格率を見てみると
30代が40%と最も合格率が高く、次いで40代が30%、50代以上が18%となり
29歳以下が12%と最も低い合格率となります。合格者の平均年齢は40歳です。
この合格者の平均年齢からも分かるように、司法書士の試験に挑む人たちの多くは、
働きながら司法書士の試験に挑戦しています。
司法書士試験の受験者数は、平成22年度のピーク時の33166名から大幅に
減少しています。減少の原因は、司法書士試験の難易度の高さと将来性の不安から
減ったとみられています。
弁理士の試験の場合は、特許庁の発表しているデータによると、2019年に弁理士の試験を受けた人は3488名、合格者は284名で、合格率は8.1%でした。
過去のデータから比較すると、受験者は年々減少傾向にありますが、合格者はほぼ横ばいで
毎年、7%〜8%をいったりきたりしている状態です。
年齢別で合格率を見てみると30代が47%と最も多く、次いで40代が26%と
なっています。
職業別では、会社員が50%となり、合格者の半分を占めています。
合格者のほとんどが数回の挑戦で合格していますが、1回の挑戦で合格する人は
10%以上います。
そして、理系出身者の合格率は78.2%でした。この合格率は、いかに弁理士の試験が
理系出身者にとって有利な資格であるかわかる数値です。
理系大学の出身者の中には、卒業研究や、理系の大学院在学中に行う研究にて
特許を出願することもあります。
特許を申請するまでに数々の工程を踏むため、理系出身者には特許や知的財産に関する
基本的な知識が備わっていることがわかります。
また、弁理士試験の選択科目試験の各科目には、理系の科目が多いことからも
弁理士試験の合格者に、理系出身者が多い理由の一つと言えます。
司法書士と弁理士では、弁理士試験の合格率の方が4%ほど高いです。
司法書士試験の合格者は、29歳未満の合格者がとても少ないのに対して
弁理士試験は、年齢も20代〜40代と幅広い年齢の合格者がいます。会社員として
働いている人たちも多く、大半の人が理系の職種についている人たちです。
よって、たくさんの文系の人たちが取得する司法書士の試験よりも
社会人になってからの実務を活かし、コツコツ学べる弁理士試験の方が理系出身者に
おすすめであると言えるでしょう。
司法書士と弁理士の勉強時間
司法書士試験の勉強時間は3000時間と言われていますが、中には3000時間以上を
試験勉強に費やしている人もいます。その理由として上げられるのは、やはり試験科目が
多いことでしょう。そのため、1発で司法書士の試験に合格する人は、とても少なく
多くの人は2年〜3年かけて、司法書士試験の合格を目指します。合格までの期間を2年と
決めて取り組めば、膨大と思える3000時間も余裕を持って計画的に試験勉強に取り組む
ことが出来ます。
では、司法書士の試験に比べて、弁理士試験の勉強時間はいかなるものか説明しましょう。
弁理士の試験に合格するために必要な勉強時間は、3000時間と言われており
時間だけで見ると、司法書士と同じ時間数になります。しかし同じといっても時間の使い方は
全く違います。弁理士の1日平均の勉強時間は平日が3時間で土日が8時間と言われて
いますが、正しい勉強法で弁理士の試験に必要な範囲だけを勉強すれば、勉強時間は1500時間程度で合格が可能です。弁理士の試験を受ける人たちの多くは会社員ですから、働きながら勉強に時間を費やすことは簡単なことではありません。
しかし、集中して効率よく勉強を進めていけば、勉強時間は1500時間程度ですみ
受験にかかるまでの時間を1年とし、1日4時間×365日を少しずつ積み重ねていけば
1460時間になり、働きながらでも1年で合格することが可能です。
司法書士と弁理士にある年収の違い
司法書士の年収
司法書士の平均年収は630万円です。一般の働き手に比べると高い年収となっています。
しかしこの平均年収は、下は20代〜上は60歳以上までの司法書士の年収の平均です。
司法書士の試験は大変難しく、合格率も他の士業に比べて低いこともあり、年収は高額である
イメージが強いと思いますが、実際は年収1000万円には届きません。
年齢別での平均年収は、50歳〜54歳で652万円と最も多く、20歳〜24歳では
290万円です。24歳以下の年収が極端に少ない理由は、戦力にならず、研修から始まることにあります。
また、平均年収は就職する法人や事務所によっても大きく異なります。
①独立して成功している:1000万円以上
司法書士は、独立して成功させることがとても難しい職業の1つです。
独立はしても、1000万円には届かない事務所が大多数を占めますが平均して、
雇われ司法書士をしていたころの年収に比べると、収入が増えている司法書士が多いです。
②大手法人の司法書士:700万円〜800万円
③大手事務所の司法書士:500万円〜600万円
④個人事務所の司法書士:300万円〜500万円
②と③の年収の差は、主に業務に関係しています。大手法人は幅広い知識を求められるのに
対し、大手事務所は、自分たちの強みを活かし、特化した業務を行います。そのため、同じ
大手でも、より幅広い知識を問われ、幅広く活躍することのできる大手法人の司法書士の方が年収は高くなっています。
この他にも都道府県別の平均年収のデータも公表されており、東京都が882万円と最も
多く、1番低い平均年収であったのが沖縄県の504万円です。
東京都と沖縄県では378万円もの収入差が出ています。
以上のことから、平均年収630万円と謳われる司法書士の年収ですが必ずしも、この額が
もらえるというわけではなく、年収630万円よりも低い年収になってしまう可能性が
あることを押さえておくとよいでしょう。
弁理士の年収
弁理士の平均年収は800万円です。
20歳〜24歳の平均年収は433万円で、50歳〜54歳の年収が912万円と
最も多い平均年収となります。
また、平均年収は就職する企業によって大きく異なります。
①独立して成功している:年収1000万円〜3000万円
弁理士は、その絶対数が少ないことから大変重宝される職種であるため
成功する確率が高く、知財コンサルや経営コンサルに参加することもあり
幅広い収入が期待できます。
よって、年収1000万円から2000万円で独立成功と言えるでしょう。
②大手弁理士事務所、または大企業の企業内弁理士:年収881万円
先に独立を考える弁理士は、大規模な事務所や大手企業に就職する人が多い傾向にあります。
③中規模な弁理士事務所、または中企業内弁理士:年収729万円
④零細弁理士事務所、または小企業の企業内弁理士:年収661万円
この他にも都道府県別の平均年収のデータも公表されており、東京都が1064万円と
最も多く、1番低い平均年収であったのが沖縄県の608万円です。
東京都と沖縄県では456万円もの収入差がでています。
以上のことから、弁理士の年収と司法書士の年収では、圧倒的に弁理士の収入の方が多い
ことがわかります。そして、弁理士は歩合制を採用している特許事務所が多いことから、
年齢に関係なく経験や能力が給与に反映されるため、給与を増やすことが可能です。
特に、理系出身者の場合、得意分野を活かし他の弁理士よりも豊富な知識を
持ち合わせているので、特許事務所での実務経験が5年前後で年収1000万円が手の届く
範囲となります。弁理士は売上次第で報酬は青天井なので年収2000万円も
夢ではありません。
司法書士と弁理士の仕事内容の比較
司法書士の業務内容
司法書士は、私たちが生活をしていく上でもっとも身近な法律の専門家です。
司法書士には主に6つの業務があります。
①土地や建物の登記に関する業務
登記申請手続き、所有権移転登記、抵当権設定登記、抵当権抹消登記が主な業務になります。
この業務を行う司法書士はたくさんいます。というのも、私たちが家を買った時、
土地を買った時、親族が亡くなった時など、わりと身近で起こりうることで、必ず
必要となる業務になるからです。
②会社や法人の登記に関する業務
商業、法人登録に関する全ての業務をおこないます。
③成年後見に関する業務
法定後見制度や任意後見制度の支援を行い、家庭裁判所に提出する申立書類の作成や、
司法書士が後見人にとなる業務です。
④相続・遺言に関する業務
身内が亡くなった時、離婚時などの不動産の名義変更の申請や相続人の調査をします。
また、相続破棄、特別代理人の選任申立、遺産分割調停の申立など、家庭裁判所に提出する
書類を作成する業務です。
⑤責務整理に関する業務
借金の返済が出来なくなってしまった人を対象に、金融会社との交渉や法的な手続きをして
借金返済の負担を減らす手助けをする業務です。
⑥裁判に関する業務
地方裁判所、簡易裁判所、家庭裁判所に提出する書類を作成する業務です。
弁理士の業務内容
弁理士の代表的な業務は、知的財産権を取りたい人のために特許庁への手続きを
代理で行うことです。
弁理士の仕事を大きく分けると3種類の業務があります。
①産業財産権(特許・実用新案、意匠、商標)の取得
権利の取得、鑑定・判定・技術評価書の作成に関する業務を担当します。
これらはいずれも、弁理士の独占業務となります。
外国での産業財産権の取得のために、外国における拒絶理由通知に対する応答案を作成したり、応答案を基に外国の代理人に正式な書面の作成を依頼したりします。
②産業財産権の紛争解決
訴訟を始め、裁判外紛争解決の手続きなど、輸出差止めの業務となります。
③コンサルティング業務、契約支援
知財コンサルティング、契約書の作成・レビュー、契約の代行を行います。
①の仕事は技術者へのヒアリングが多くを占める業務で、技術者の発明について
十分に理解し、特許明細書を作成します。特許明細書は、技術者の説明や、背景技術、
技術の応用例などを記載する必要があり、技術者へのヒアリングが1回、稀に数回と
なる業務です。このヒアリングに関して理系出身者の場合、発明の基礎的なロジックを
理解しているため、スムーズに業務を行うことができるでしょう。
理系には弁理士がおすすめ!
当記事では、司法書士と弁理士の年収、業務内容、試験難易度などの違いを
解説させていただきました。
司法書士と、弁理士ともに最高峰の国家資格であり、どちらも誇れる職種ですが
私は理系の人たちに、弁理士になることをおすすめします。
弁理士は、司法書士に比べて合格率も高く、試験勉強もスムーズに行うことができ、一発で
合格できる確率も10%以上と、弁理士の方が高いです。
また、平均年収を比べても200万円以上もの差がついていることもおすすめする理由の
1つです。司法書士は、最難関と言われる試験に合格したにも関わらず、その年収は果たして努力に見合っているのかと考えると疑問が残ります。弁理士の場合は雇われ弁理士としても
安定が望め、独立した後のことを考えても努力が報酬に結びつく数少ない業種です。
そして、やはり司法書士には文系出身者が多く、弁理士には理系出身者が多いという点を
考えると、今持っている自分の知識を存分に発揮できるのは弁理士という職業でしょう。
あなたが理系出身で、どちらの資格を取るか迷っているならば、是非この記事を参考に
していただければ幸いです。
理系出身弁理士のお仲間が増えることを願っています。